五色ヶ原。秘境の懐へガイドと散策

森本来の姿が残る「乗鞍山麓 五色ヶ原の森」。足を踏み入れると、そこから神秘的な深緑の世界が広がります。倒木が朽ち、土に還ったその上に、新たな木が育つ。たくましい生命の循環を目の当たりにできます。
ガイドの塚本勝さんに案内してもらいながら、天然林が生い茂り、美しい滝や小川、神秘的な湿原を散策していると、私たちの生きる地球が歩んできた壮大な時の旅に、少しだけお邪魔したような気持ちになれました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人:塚本勝さん
認定ガイド「五色ヶ原の森案内人の会」代表。かねてより老後は田舎で暮らしたいと考えていたところ、旅行で訪れた高山市丹生川が気に入り、2005年に夫婦で移住。地域の暮らしを楽しみながら、五色ヶ原の環境保全と活用に尽力する。
五色ヶ原。秘境の懐へガイドと散策

手つかずの自然が残る秘境の森

乗鞍岳の麓に広がる秘境の森・五色ヶ原。足を踏み入れると、さまざまな種類の木々や苔に覆われた深緑の世界が出迎えてくれます。せせらぎが聞こえる方角には、乗鞍岳を源とする地下水が流れる渓流や湿原が現れ、雄大な大自然を目の前で味わうことができます。

「ここには森本来の姿が残っています。人から見たら何も変わっていないように見えるけど、地球の時間軸からすると、森はすごく変化している。何千年、何万年の世界ですからね。私たちが住む地球の壮大さを、じっくりと見渡しながら感じてみてください。森は好奇心を満たしてくれますよ」。

貴重な自然を壊さずに活かすツアーが始動

高山市丹生川地区(旧丹生川村)に位置する五色ヶ原の森は、もとは乗鞍岳への登山道。大正時代中頃から、現在の乗鞍スカイラインの原型となる別の登山道が整備されたことで五色ヶ原のルートは使われなくなり、豊かな自然が残されました。

この自然の宝ものを保護しながら活用していこうと、2004年から入山ツアーが始まりました。ガイド同伴、1日の入場人数を制限し、循環型の水洗トイレや水力発電を行うなど、全国に先駆けた取り組みを行っていることも魅力の一つです。

悠久の時に育まれた生命の循環を感じる

「五色ヶ原は、乗鞍岳の噴火によって流れた溶岩でつくられた大地。岩や倒木の表面を覆うように苔がむし、そこに木々が生えて森になる。落ち葉や倒木が朽ちて積もり、土ができていくんです」。

倒木の上で新しい木が成長するうちに、下にあった倒木は朽ちて空洞をつくり、森の土へと還っていきます。その生命の循環に、森が過ごしてきたとてつもなく長い月日を感じさせます。

異なる歴史を背景に持つ、個性豊かな3コース

ツアーは主要の3コースから選べます。「ゴスワラコース」は苔に覆われた神秘的な森が続き、奥には国内でもこれほどの天然林が残っている場所は少ないといわれる貴重な原生林が残ります。

「土ができてくると広葉樹が生える。だから古い森ほど、広葉樹が多いんですよ。『カモシカコース』がそれにあたり、約30万年前の噴火によってできた森です。アップダウンはありますが滝が多く、見所たっぷり。『シラビソコース』は池や沢を巡り、クライマックスにはよく五色ヶ原のメイン写真を飾る布引の滝が待っている。どのコースも違った魅力がありますよ」。

循環型エネルギーを使った先駆的な取り組み

五色ヶ原の森には全部で5カ所ある山小屋で休憩できます。驚いたのは、非常に山奥い場所にもかかわらず水洗の洋式トイレと電気があること。トイレは微生物によるバイオマス浄化システムを利用して自然に循環。電気は小屋の近くを流れる川の水を使った水力発電です。

登山道も、倒木などこの森にあった自然のものを使って整備しているといいます。あるものだけで完結させる究極のサスティナブルツーリズムを、早くから実現させてきました。地元の人びとは、観光活用のために自然を壊すことが取り返しのつかないことであると知っていたのでしょう。それは自然と生きてきた人たちだから気付いたことかもしれません。

神秘の森の新たな発見をガイドと一緒に

自然体験ツアーが初めてという人も、安全かつ最大限に楽しませてくれるのが、ガイド付き散策の魅力。

「1,500~600メートルより下はシラカバ、それより上はダケカンバ。ダケカンバは皮がペリペリとめくれて、紙のように使えるから別名は『草紙カンバ』といいます。濡れても火が付きやすく、着火剤として昔から使われていたんですよ」。 

こんな発見の楽しさも、ガイドがいてこそ。1つのコースにかかる時間は、約8時間。ハードルが高く感じますが、森はどんどん景色を変え、尽きない好奇心を与えてくれます。約2~4時間で回れるショートコースも。歩くペースに合わせてくれるので、息が切れることはありません。

ゆっくりと歩きながら貴重な自然を旅する

「山小屋で休憩も挟みますし、話しながらゆっくり進むので登山をしない方でも大丈夫。中には90代の方も来られましたよ」と笑う塚本さんも70歳。80代の現役ガイドさんも3人もいるとか。

地域の人びとによって貴重な自然が残された五色ヶ原の森。思わず息をのむ壮大な滝や、何千年という歳月をかけ育っていく森の神秘。ここにしかない自然探勝の旅が待っています。

旅のメモ

「乗鞍山麓五色ヶ原の森」へは、ガイドツアーへの申し込みが必要です。