未来を斬り開く 関の刀匠の心意気

刃物の町、関市。切れ味の良いハサミや包丁などを手がけるメーカーが数多くあり、「世界三大刃物産地」として海外からも高い評価を受ける場所です。
関の刃物産業の始まりは、戦国時代の武士の誇り、日本刀。よく切れると評判を呼んだ関の刀は、全国の武将たちから認められました。
織田信長の抱え鍛冶として活躍した刀匠「藤原兼房」の名は現在、26代まで受け継がれています。日々鍛錬に向き合う26代藤原兼房さんを訪ねました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人:26代 藤原兼房さん
室町時代から続く刀匠藤原兼房の26代目。大学在学中から父・25代藤原兼房氏に師事して修行を始める。精力的に制作を行う傍ら、公開鍛練や人気アニメ作品とのコラボ制作、土産品の監修など、刀の魅力を広く伝えるための活動に取り組む。
未来を斬り開く 関の刀匠の心意気

名だたる武将たちに愛された関の刀

「折れず、曲がらず、よく切れる」。

日本で有名な刀剣産地は5地域あり、「五箇伝」と呼ばれています。奈良の「大和伝」、京都の「山城伝」、岡山の「備前伝」、神奈川の「相州伝」、そして岐阜の「美濃伝」です。

関を中心とした「美濃伝」は切れ味が鋭く、頑丈な刀身が評判を集めました。戦国乱世、優れた刀を求めていた武将たちは関の刀鍛冶を「お抱え鍛冶」として重宝します。

織田信長や武田信玄、徳川家康、豊臣秀吉、明智光秀など名だたる武将たちに認められた関鍛冶たちの技術は、現在も日本刀をはじめとして切れ味のいい包丁づくりなどに生かされています。

「カッコいい」父の背中を追って刀匠に

自宅の裏手にある鍛錬場。兼房さんはここで日々、白い作務衣に身を包み、弟子たちとともに刀づくりに挑んでいます。

「小さいころから、父親の仕事姿を『カッコいいな』と思って見ていました」と話す兼房さん。県外の大学に在学していましたが、帰省した際に父である25代藤原兼房さんに指導を仰ぎ、修行を始めます。

「はじめのうちは、『曲がっている』と言われても、どこが曲がっているのか全然わからなくて。最初は時間も燃料もたくさん使ったね。でもしっかり教わって、経験を積めばわかってくる。25歳で文化庁の試験に受かり、刀匠になることができた」。

「藤原兼房」は室町時代に始まり、信長の抱え鍛冶、徳川家代々の刀を作ってきました。

戦国乱世を生き抜いた刀が目の前に

刃に塗る上質な土と、焼き入れに使う炭、そして長良川と津保川の清流。鎌倉時代末期から室町時代初期、刀づくりに適した風土に魅了された刀鍛冶の「元重」が関に移り住んだことが、関鍛冶の始まりとされています。室町時代後期には、この地域に200人ほどの刀鍛冶がいたとされ、砥石(といし)など数多くの遺構が残っています。

中でも「関の孫六」と称された2代目兼元は、その切れ味が評判となり関鍛冶を全国に広めた立役者。また兼元と並び称される和泉守兼定の刀は、端正な美しさが特徴で、高い評価を得ています。


「関鍛冶伝承館」は、関鍛冶の歴史や伝統の技をパネルや映像などで一挙に学べる拠点です。さらに兼元や兼定が作った刀が、今も輝きを放って展示されています。実際に戦に使われた刀がズラリと並ぶ展示室は圧巻。想像力を駆使すれば、戦国ドラマ以上の “リアル”を感じ取ることができるでしょう。

美しさにも注目 美術品としての刀

「刀は武器として怖いイメージを持たれているけれど、その美しさにも注目してほしい」。

日本人は昔から、お守りとして刀を持つ文化があります。孫が生まれたときや家を建てたとき、会社を始めたときなどの大きな節目に、願いを込めて美しい刀を家に置きます。刀匠が凝らした工夫や技術、全体美などに目を向ければ、武器として見ていたときとは全く異なる印象になります。

「刀はしっかり手入れすれば1000年くらいもつ。それを自分の手で作れるのはうれしいこと」。

鍛練や居合斬りを見て、刀を実感

  • 写真提供 岐阜新聞

火花を散らし、「トンテンカン」とリズムよく鎚(つち)を振り下ろす「鍛錬」は、日本刀の原料になる玉鋼(たまはがね)をたたいて不純物を取り除く作業。熱してはたたいて伸ばす工程を繰り返すことで、強靭(きょうじん)な鋼が作られます。

この様子を見学できるのは、月に1度の一般公開を行う関鍛冶伝承館と、数々の体験プログラムが用意されている「刃物屋三秀 関刃物ミュージアム」。関刃物ミュージアムでは、竹を瞬時に真っ二つに切り落とす「居合斬り」の実演見学や、実際の刀の原材料を使う小刀づくりや鍛練の体験が予約制で可能。25代・26代藤原兼房さんに直に教えてもらえる、プレミアムな体験もあります。

今の生活に便利な関の刃物が集結

関の刀鍛冶によって築き上げられた日本刀の技術は現在、最新の機械技術を融合させて、包丁やハサミなど私たちの生活に欠かせない道具に生かされています。世界にも名を馳せる刃物メーカーが数多くあり、「世界三大刃物産地」といわれるほどの生産量を誇ります。

「岐阜関刃物会館」には包丁やハサミ、爪切りなどをはじめとした刃物約2,000点が勢ぞろい。日常使いしやすい洋包丁から和包丁、ペティナイフやカスタムナイフ、料理人ご用達の特殊包丁まで。価格帯もさまざまなので、きっと合う包丁が見つかります。

すぐ隣には、2021年にオープンした関市の観光拠点「せきてらす」が。真横には長良川鉄道が走ります。

アニメやお菓子とのコラボレーション

最近はアニメやゲームなどから刀に注目する若い人も増えています。兼房さんは25代とともに、積極的にコラボ作品の制作に携わっています。これまで関鍛冶伝承館ではアニメ「エヴァンゲリオン」や映画「バケモノの子」などの企画展が開かれました。

また日本刀をコンセプトにしたお菓子の開発・監修も務めます。完成したのは「日本刀アイス」や「玉鋼ビスコッティ」、「鍔(つば)チョコ」など。どれも刀匠が監修しただけあって、リアルな見た目が話題を集めています。

「入り口はどこでもいいと思う。特に興味のなかった人が『カッコいい』『おもしろい』と思って、刀について少しでも知ってくれたら。いつか良さを感じて、手に取ってくれたら最高ですね」。

戦国武将の武器として、品格高い美術品として。日常使いの包丁やハサミ、2次元世界の作品やおもしろお菓子。さまざまな表情を見せる「関の刃物」は、無限の可能性を持って未来を斬り開いていきます。

旅のメモ

体験型複合施設「関刃物ミュージアム」

「関刃物ミュージアム」では関刃物を購入するだけでなく、数々の体験プログラムを通じて、刃物産業の歴史やストーリーを学ぶことができます。

体験型複合施設「関刃物ミュージアム」