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伝説の豪傑、両面宿儺が起源の「日龍峯寺」

人気漫画で一躍注目を浴びることとなった両面宿儺(りょうめんすくな)ゆかりの日龍峯寺(にちりゅうぶじ)。5世紀前半に伝説の豪傑、両面宿儺が開創したというストーリーだけでも興味深いですが、実際に訪れると北条政子が建立したと言われる国指定重要文化財の多宝塔や、源頼朝の遺骨が分骨埋葬されているなど、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ゆかりの地でもあります。
美しい森林に囲まれた趣ある古寺に心癒されながら、歴史探訪してみませんか。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人
室賀経秀(むろが・きょうしゅう)さん
日龍峯寺の43代目住職。1700年続く古寺を守り継いでいる。
伝説の豪傑、両面宿儺が起源の「日龍峯寺」

美しい森林に囲まれた古刹の寺

伝説の豪傑、両面宿儺が開創したと伝わる古刹の寺「日龍峯寺」。関市下之保にある標高434メートルの高澤山の中腹にあります。参道沿いには、さまざまな樹種がしなやかに枝葉をつけ、木漏れ日が美しい森林が広がります。

「国の重要文化財とそれを修繕するための木材を守るために、ここら一帯は文化庁が管理しているんです」と語るのは、43代目の住職、室賀経秀さん。

前方が京都の清水寺に造りが似ていることから「美濃の清水」とも呼ばれる本堂は、柱や床板の木材に長い年月を重ねた風合いを感じます。

 「本堂は江戸時代に再建されたのですが、やはり400年以上経っていますから、どんどん風化しますね」。

日本書紀に登場する伝説の豪傑、両面宿儺

「ここに両面宿儺像があります」。

特別に見せていただいたのは、年に一度、毎年11月の第3日曜日に御開帳する両面宿儺像。両面宿儺は、飛騨国の英雄として県内では伝わっていますが、人気漫画の「呪術廻戦」で登場する両面宿儺は、最強の呪術師で主人公の身体に入り込む悪者として描かれています。

「歴史は勝者の物語として語られますから」と住職が語ってくれたのは、両面宿儺が日龍峯寺を開創した寺伝。

龍を退治し、地域住民を守った英雄

「両面宿儺は『二人いたぐらい強く、力があって、頭も良かった』と記されていたので、豪傑だったのだと思います。その噂を聞きつけ、仁徳天皇が奈良に招待した。きっと自分の配下で活躍してもらいたかったのでしょう。でも、それを両面宿儺は断ってしまい、飛騨国へ帰ってきます。その帰り道に2羽の鳩のさえずりに導かれ、偶然この地に着くと、住民から高澤山の池に住む龍を退治してほしいと相談された。両面宿儺は龍を退治し、祠(ほこら)を建てた。それが日龍峯寺の始まりと言われています」。

住民を救った英雄だった両面宿儺。漫画に描かれる姿とは別人のようです。

「国に背いたという逸話から、悪者として扱われるのかもしれませんね。でも、漫画に出てくる両面宿儺は子どもたちに大人気です。両面宿儺がつくった寺ということで、ここにも多くの子どもたちが来るようになりました。ダークヒーロー的な存在なのかもしれませんね」。

源頼朝の分骨が眠る祠

本堂の裏手には大きな岩山があります。その岩を削って祀られているのは、源頼朝の分骨が眠る宝篋印塔(ほうきょいんとう)。

「鎌倉時代、大干ばつによる飢餓で、多くの人が苦しんでいた。そのとき、北条政子が夢枕で『日龍峯寺に池あり』という言葉を聞き、道雲(どううん)という高僧を遣わせてここでご祈祷したところ、見事恵みの雨(霊雨・れいう)が降ったそうです。政子はそれがとてもうれしかったんでしょうね。お礼に7つのお堂を建立して、夫である源頼朝の遺骨も分骨埋葬してくれました」。

鎌倉時代、北条政子が建てたというお堂は応仁の乱でほとんどが焼失しましたが「多宝塔(たほうとう)」だけ、現在も残っています。

北条政子が建立した「多宝塔」

本堂から参道へ戻る道中に多宝塔があります。屋根はヒノキの樹皮を重ねてつくる日本古来の伝統技法「檜皮葺き(ひわだぶき)」。軒は広く、軒付が跳ね上がるような曲線美は、800年以上経っていると思えないほど美しく、堂々とした雰囲気を醸し出しています。将軍家が建立した現存する貴重な建造物で、国の重要文化財に指定されています。

「昔は、信者の方たちが自由に入れたのですが、少しでも風化を防いで歴史的、文化的価値を保護するために、今は開けていないんです」。


宗派が誕生する以前の古寺「日龍峯寺」

日龍峯寺の起源は、古墳時代の5世紀前半。両面宿儺が天皇の命により日龍の精舎(しょうじゃ)を建てたのが始まりです。その後、日龍峯寺と開山したのが、東大寺の創建でも活躍した行基という有名な僧でした。寺には宿坊がいくつもあり、数百名の僧侶が修行をしていました。宿坊から輪番で日龍峯寺の住職を務めていたといいます。

世襲制は江戸時代からで、室賀住職は物心がつくころには、自分も僧侶の道に進むのだと感じていたと話します。

「先代はあまり教えてくれなかったのですが、僧侶の姿で拝んでいる後ろ姿を見て、幼心に信仰心を培ってきたのだと思います」。


石仏が並ぶ古道は、登山客にも人気

本堂の裏の洞窟から自然と湧き出す水「みたらしの霊水」は、100円でペットボトルを購入し、そこに入れて持ち帰ることができます。水を注ぐ人の中には、登山客の姿も。

「本堂の裏から、昔の人が参拝するために通った古道が尾根に沿って続いていて、ハイキングコースとしても人気なんですよ」。

標高434メートルとそれほど高くない高澤山ですが、周りに高い山や建物がないので、とても見晴らしが良く、展望台からは岐阜城が頂上にそびえる金華山や木曽山脈最南端の恵那山、お隣、愛知県犬山まで見渡すことができます。

「参拝が目的ではなく、ハイキング目当てでも、歴史あるこのお寺に立ち寄っていただけると嬉しいです。ここが皆さんの心の拠り所になればと思って、日々精進しています」。

旅のメモ

「両面宿儺像」の特別拝観プランに参加しよう!

両面宿儺像は、年1回、11月第3日曜日に開催される御開扉でしか拝むことができませんが、毎月第2日曜日に開催中の、ご住職の案内で特別に拝観できるプラン(特別御朱印・御数珠付き)であれば、ゆっくりと拝むことができます。

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