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和菓子ナビゲーターが語る「栗きんとん」の秘密?

中山道を中心に発展した中津川の銘菓「栗きんとん」。栗と少量の砂糖を一緒に炊き、一つ一つ手絞りで仕上げた逸品です。旧中山道沿いに店舗を構える市川製茶の市川尚樹さんは、日本茶や地元のお菓子の魅力を発信するため、イベントの開催や観光資源化に精力的に取り組む自称「和菓子ナビゲーター」です。
おいしいお茶と旬の郷土菓子をいただきながら、地元の魅力をたっぷり教えていただきました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人:市川尚樹さん
旧中山道沿いに店舗を構える市川製茶(中津川市駒場)の代表。地歌舞伎の舞台に立つ役者として東濃歌舞伎中津川保存会の会長を務めるなど、地場文化の担い手の顔も持つ。
和菓子ナビゲーターが語る「栗きんとん」の秘密?

自称和菓子ナビゲーターが語る栗きんとん

岐阜県の秋の風物詩、栗きんとん。9月になると中津川市、恵那市、八百津町などの和菓子店には栗きんとんが並びます。お茶を作っていることもあり、地元の和菓子屋さんとは昔から顔なじみと話す市川尚樹さん。中津川市内にある全14店舗の和菓子屋の栗きんとんを毎年、食べ比べしているとか。

「栗きんとんと一言で言っても、店によって味も食感も全然違う」と語ってくれました。

旧中山道沿いにたたずむ市川製茶

国道257号線を東に向かって車で走ると、右折して旧中山道へ入る脇道があります。脇道に入ると民家が立ち並ぶ住宅地へ出て、そこには、民家を突き抜けるようにまっすぐ伸びる細い道があります。江戸時代に旅人や商人たちが行き来していた中山道です。市川製茶がある中津川市駒場は、江戸時代の大井宿(恵那市)から中津川宿(中津川市)のほぼ真ん中に位置しています。

店によって異なる製法と味わい

  • 写真提供:岐阜新聞

「しっとり系ならこの店、ホクホク系ならこの店と、店によって違う栗きんとんが楽しめるのがこの町の魅力だね」。

全国的に秋の名菓として名を馳せる栗きんとん、実は中津川市が発祥の地という説もあります。中津川菓子組合に所属する和菓子屋は、お互いライバルでもあるけれど、それぞれにお店の栗きんとんの作り方を伝え合うそうです。

シンプルな製法の栗きんとん

栗と砂糖しか使わないシンプルなお菓子だから、決して同じ味にはなりません。使う栗の産地や炊き方、粒の大きさ、砂糖の量などで微妙に味が変わり、その店特有の栗きんとんが生まれます。

「最近では地元産の栗を使った和菓子店も増えてきたよ」。

昔は多く自生していた栗の木ですが、今は栽培がほとんど。

「栽培しやすいように栗の木の高さが2.5メートルになったら剪定するんだけど、それがめずらしいのか、イタリア人が興味津々で聞いてきたよ。イタリアも栗の産地なのにね」と、外国人旅行客が訪れた時の話をしてくれました。

オリジナルの「栗きんとん専用茶」を開発

市川さんの栗きんとんに懸ける情熱は、ついに「栗きんとん専用茶」を開発するまでに。専用茶は、中津川産のくき茶と愛知県西尾市の抹茶を独自の製法でブレンド。独特の香りがして、飲むと力のある渋みを感じるけど、後味はすっきり。栗きんとんの栗の風味や甘さにこの渋みがよく合います。

「専用茶を飲むと、何個でも食べられるでしょ。後味がすっきりしているから、ついもう1つと栗きんとんをつまんでしまう」。

茶葉の成分や特徴、そして栗きんとんを熟知している市川さんだからこそ生み出せたスペシャルなお茶です。

地域で振興、お茶と栗づくり

中津川市駒場でお茶の生産が始まったのは、市川さんの祖父の代。土地に水がなくても育つ作物をつくろうと役場と住民が一体となって栗やお茶の生産が始まりました。市川さんの父が20歳の時に、母屋を製茶工場として使うようになり、養蚕していた家屋で生活するようになりました。茶畑とお茶の作業場で幼少期を過ごした市川さんは、中学生の時に家業を継ぐことを決断します。そして大学卒業後に静岡県にあるお茶の専門学校で2年間勉強し、家業を継ぎました。

中山道が伝えた旬のおいしさ

もともとは里山の家庭のお菓子だった栗きんとん。「商品化されたのは明治期」ということ。旅人や商人たちは中山道を歩き、道中で栗きんとんを食べ、そのおいしさは人から人へと伝わっていったのでしょう。

元禄年間(1688-1704年)に創業した「すや」は、もともとはお酢屋ですが、家庭で作られていた栗きんとんを商品として作り始めたところ、そちらが主力商品になりました。元治元年(1864年)創業で古い町家が残る中津川宿に本店を構える「川上屋」は、百貨店を中心に全国展開しています。

「お隣の恵那市には『恵那寿や』、『恵那川上屋』がありますが、それぞれ中津川の『すや』『川上屋』とは別の会社なんですよ。もともと在籍していた職人が独立して始めた会社なんです。『恵那川上屋』という名前の前は『ブルボン川上屋』って洋菓子がメインでした。『恵那寿や』は、『すや』の元職人と『すや』の娘さんが結婚して始まっているしね」。

訪れるから味わえる旅のごちそう

「地元の人は栗きんとんよりも栗粉餅(くりこもち)を好みます」と市川さん。

口に入れると、栗粉がすぐに溶け、口の中にほのかに残る栗の甘さと柔らかい餅の食感で絶妙なおいしさに。日持ちするなら栗きんとん並みに人気になったかもしれません。

市川製茶のある中津川市やお隣の恵那市は、中山道の文化が残る地域です。地元の和菓子屋で栗粉餅と栗きんとんを買い、情緒が残る中山道で食べ歩き。ローカルな旅ならではのごちそうです。

旅のメモ

栗きんとんをはじめとした和菓子をはじめ、地酒や木工品、新鮮野菜など地元の特産品を販売している「にぎわい特産館」。お土産購入に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。濃厚な栗の味が楽しめる「栗きんとんソフト」は必ず食べたい逸品です。


中津川市栄町1-1 にぎわいプラザ1F

 0573-62-2277