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舞台と観客一体、伝承の地歌舞伎の楽しみ方

全国最多の30を超える地歌舞伎の保存会がある岐阜県。地歌舞伎の復興に貢献した小栗克介さんを父にもつ美濃歌舞伎博物館相生座(瑞浪市日吉町)館長の幸江さん。父の想いを継ぎ、県内各地で地歌舞伎の復興に尽力しています。

江戸時代、山間部に暮らす庶民にとって唯一の娯楽であった地歌舞伎は、役者と観客の一体感が独特の魅力。芝居小屋を訪ね、庶民の歴史を感じる旅を体験しました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人:小栗幸江さん

美濃歌舞伎博物館相生座館長。芝居好きの父親の影響もあり、役者はもちろん、三味線・語り、化粧・着付など、地歌舞伎に必要な知識を習得し、次世代の育成や県内外の保存会活動を支援している。
舞台と観客一体、伝承の地歌舞伎の楽しみ方

地歌舞伎保存会の数、全国最多

岐阜県には全国最多の32もの地歌舞伎保存会があります。地歌舞伎は字のごとく「地元」に伝わる「歌舞伎」のこと。岐阜県の地歌舞伎についてその魅力を教えてもらうため、館長の小栗幸江さんを訪ねました。白髪が混じった髪を後ろにギュッと結び、横は刈り上げ。ここ数十年変わらない小栗さんのスタイルです。優しい表情は、地歌舞伎の話になるとグッと眼差しに強さが宿りました。

山村に残る地域の文化「地歌舞伎」

田んぼが広がる里山を抜け、山道を奥へと入っていくと突然、美濃歌舞伎博物館相生座の入口が現れます。車を停めて、中へ入ると砂利道でつくられた小道があり、その奥の林の中にあるのが美濃歌舞伎博物館相生座。明治時代に建てられた芝居小屋を復元した木造建物には、凛とした空気と爽やかな木の香りがあり、その姿は森に馴染んでいます。

中山道がつないだ役者との出会い

「江戸や京都で流行っていた歌舞伎の役者たちが地方巡業のため通ったルートが岐阜県の山間部を通る中山道。大きな河川がないから、芝居道具や衣装を荷車で運ぶことができ、山間の地や村々は、幕府の取り締まりから身を守ることができた。役者たちにとって都合がいいルートだったんです」。

静かな村に訪れた、唯一の娯楽

中山道沿いの山村は、娯楽のない静かな村。そこに暮らす村人たちとって、役者たちの派手な衣装や芝居の稽古をする姿は憧れの的でした。

「村人たちは役者から芝居を教えてもらい、自分たちでも演じるようになった。江戸時代は倹約令があったから、華やかな着物を着て芝居していると取り締まりの対象になってね。だから、神様に奉納する祭事として生き延びた」。

戦後、廃れていた地歌舞伎が復興

岐阜県で個人として初めて本格的に地歌舞伎の復興に取り組んだのが、小栗さんの父、克介さん。約50年前、ふるさとの瑞浪市日吉町に戻り、事業を始めた頃です。克介さんは戦時中に捕虜収容所で、シーツを草木で染めて着物に見立て、棕櫚(しゅろ)の木の皮でかつらをつくって、仲間たちと歌舞伎を上演したほどの芝居好き。

「幼い頃に母を亡くした父にとって、記憶に残っているのは、母が村芝居をしている姿なんです」。

村人たちでつくり上げる、地元の文化

中山道沿いの山深い場所だった瑞浪市日吉町には、戦前まで地歌舞伎が残っていました。克介さんの子ども時代にあったのは、芝居をする母親の姿だけでなく、三味線やお囃子を稽古する人、着物を縫う人、大道具を作る人など、村人たちが一致団結して地歌舞伎に打ち込む姿。その時代の地元の誇りをもう一度取り戻したかったのかもしれません。

時が刻まれた本格的な歌舞伎の舞台

相生座の芝居小屋には回り舞台、両花道があり、客席は1階の平土間と2階の特等席、桟敷があります。本格的な歌舞伎の舞台。舞台の床には、明治時代から使われている板が残り、そこだけ違う色をして年月の長さを物語っています。

地歌舞伎は江戸期から時を重ねるなかで、地域に根付いたオリジナルの文化となりました。県内に30以上ある保存会のうち、昔からの芝居小屋を残す会は9軒。今では県外から訪れるファンも増えました。

地歌舞伎で江戸時代にタイムスリップ

歌舞伎はストーリーがわからなくても楽しめる魅力がたくさん。地元の役者と観客の間に流れる独特な温かい空気は、芝居の中盤にさしかかる頃には、小屋全体を包み込んで心地よさにあふれます。地歌舞伎を観ていると、地域のコミュニティが大切にされていた昔の日本、江戸時代にタイムスリップしたよう。

「公演を観るなら、是非、古い芝居小屋で昔の人たちと同じように朴葉ずしや五平餅などの郷土料理を味わいながら、笑って観てほしい」。

散逸の危機にあった衣装を一挙に買い取り、修繕を重ねながら、今も約4,000着の衣装を大切に受け継いでいる幸江さん。相生座では、その貴重な衣装の一部やかつら、髪飾りなどの装飾品を見学できます。

旅のメモ

舞台と観客が一体となれるのが魅力の芝居小屋の「地歌舞伎公演」。

あなたも「日本一!」と声をかけて盛り上げてみませんか。

ぜひ江戸の庶民の娯楽を体験してください。