東濃ひのきの「恵みの森」見て触れて体験

細かく刻まれた年輪の中央は淡いピンク色に染まり、その香りの高さが際立つ銘木「東濃ひのき」。中津川市の最北部にある加子母(かしも)地域で育つヒノキは、東濃ひのきの中でも特に質の高さが認められています。地域内にある国有林「木曽ヒノキ備林」には樹齢300~400年の天然ヒノキが数多く残り、ここから伊勢神宮の式年遷宮に使われる御用材が伐られています。
大切に受け継がれてきた自然の恵み。これを守り、森林組合の活動を通して魅力を発信する安江愛子さんに、お話をうかがいました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人:安江愛子さん
加子母で生まれ育つ。県外で就職したのち故郷に戻り、加子母森林組合でPR事業を担当する。祖父は刷毛の木柄を作る工場を営んでおり、子どものころから木に親しんでいた。
東濃ひのきの「恵みの森」見て触れて体験

次世代につなぐ持続可能な加子母の森づくり

「加子母の人たちは、代々、山を守ってきました。加子母森林組合では『美林萬世之不滅(びりんばんせいこれをたやさず)』を理念とし、美しい森を循環させ、次世代につないでいく精神を受け継いでいます」と安江さん。

加子母の森は、林齢の異なる木々が育つ「複層林」。持続的に森林資源を生み出すことにより、どの世代も森に関心を持てるよう、伐採する木を調整しています。

「木と共に歩み、自然に寄り添った山づくりがいかに大事かを加子母の人たちは知っていた。持続可能な森林づくりを、ずっと前から始めていたんですね」。

安江さんもまた、そのバトンを受け継ぐ一人です。

古くから重宝されてきた質の良いヒノキ

加子母は寒暖の差が激しく、木は1年に2ミリほどしか育ちません。切り口を見ると、均一で引き締まった年輪が、歪みのない真円を描いています。芯はほのかにピンク色で艶があり、心を癒すヒノキの良い香りがふわりと漂います。

「木が若いころから丁寧に手入れをすることで、節が表に出なくなります。東濃ひのきは香りも長く続くので、日本家屋の柱などにぴったりなんです」。

その質の高さは、恵まれた自然環境に加えて、山に入り、丁寧な手入れを積み重ねた加子母の人びとの努力の賜物でした。古くから最高品質の建築用材として重宝され、家屋だけでなく、神社や仏閣などにも使われてきました。

尾張藩による伐採禁止で守られた貴重な天然林

  • 写真提供:岐阜新聞

加子母に加えて、中津川市の付知、川上地域は「裏木曽」と呼ばれます。この辺りはヒノキに限らず、古くから良質な木材が育ちました。

江戸初期、築城や江戸城の大火のたびにこの地域から大量に木々が伐り出され、森は荒廃。当時この地を治めていた尾張藩は、ヒノキやコウヤマキなど「木曽五木」と言われる五種類の木材の伐採を禁止しました。「ヒノキ1本、首ひとつ」と言われるほど、厳しく取り締まられたといいます。

そのため平均樹齢400年の木々が残り、現在も世界的に希少な温帯性針葉樹林として厳格に管理・保護されています。

天然大ヒノキが待つ古事の森をウォーキング

  • 写真提供:岐阜新聞

加子母地域内にある国有林は現在、「木曽ヒノキ備林」と呼ばれます。伊勢神宮の式年遷宮の御用材をはじめ、法隆寺の金堂、姫路城の心柱など、日本の重要文化財の修復材として使用されています。

この木曽ヒノキ備林を含めた裏木曽の森を歩く「裏木曽古事の森ウォーキングガイドツアー」では、伝統の伐倒技法「三ツ緒(みつお)伐(ぎ)り」によって伐られた、前回の伊勢神宮式年遷宮の御神木や美しい滝などを見ることができます。

森の中には樹齢約1000年、直径154センチメートルという巨大ヒノキも。果てしない時を生き抜いてきた、荘厳で美しい姿に圧倒されます。

村人の手で作られた、歌舞伎の芝居小屋

地歌舞伎の定期公演やクラシックコンサートなどが開かれ、現在も加子母の人びとの集いの場となっている、芝居小屋「かしも明治座」(県重要有形民俗文化財)。木の伐り出しから運搬、建設まですべて地元の人びとの手で作られ、約1年の歳月をかけて1894(明治27)年に完成しました。伐採が禁止されていた名残で、モミやケヤキなど、ヒノキ以外の木が使われています。

村人の手作りとはいえ、本格的な廻り舞台やすっぽん、両花道や2階席まである、劇場形式の豪華な農村舞台。屋号と名前が鮮やかに染められた「娘引き幕」も見事です。舞台裏の控室には明治時代の旅役者が書き残した落書きが残り、名誉館主・中村七之助氏のサインも見られます。

ひとつも無駄にしない、木から生まれるものづくり

加子母では、1本の木からたくさんのものを生み出します。丸太の真ん中は柱に、その回りは板にして、様々な製品となります。また山で伐られ、造材する過程で落とされるヒノキの枝葉を丁寧に集めて、精油(エッセンシャルオイル)を抽出しています。ヒノキの香りに癒されるこの精油を使ったボディソープも誕生しました。さらに企業とコラボレーションし、ハンドクリームやミルクローションなどにも生まれ変わっています。

お気に入りの木製品に、加子母で出会う

加子母森林組合が運営するモクモクセンターでは、おひつや曲げわっぱの弁当箱など日本の暮らしに根付いた商品から、今の生活を彩るおしゃれなカトラリーやお皿、木のおもちゃなど、さまざまな木製品が並んでいます。絵付け体験ができる、加子母のヒノキを使ったマイ箸作り体験も人気です。

「キッチンやお風呂などで気軽に使っていただけるものがそろっているので、お気に入りを探して、生活に木のものを取り入れてもらえたらうれしいです。下呂温泉や高山へ行く道中に、ぜひ加子母へ寄ってみてください」。

旅のメモ

東濃ひのきのお土産を買おう!

調湿効果でごはんが冷めてもふっくら美味しいと話題の曲げわっぱの弁当箱やおひつ、木のキッチン用品、オーダー家具、ひのきエッセンシャルオイルなど、日常で使えるヒノキのアイテムが加子母森林組合モクモクセンターでは購入できます。実際に手に取って質感を確かめて、ぜひお土産に。


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