強く美しく、心踊らす 郡上おどり

夏の約30日もの間、毎晩繰り広げられる“日本一長い盆踊り”、「郡上おどり」。例年、ひと夏で約30万人も押し寄せ、日本三大盆踊りに数えられます。そんな郡上おどりに使う下駄を「郡上の地で、郡上の木で作りたい」と移り住み、「郡上木履(もくり)」を営む諸橋有斗さん。約400年続く郡上おどりの本当の楽しみ方を聞きました。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人:諸橋有斗さん
 県立森林文化アカデミーで木工を学び、卒業後に郡上市に移住。郡上おどりの下駄をメインに制作・販売する「郡上木履」を立ち上げ、2016年に店舗と工房を開設。材料から制作まで“メイドイン郡上”にこだわり、鼻緒(はなお)や焼印などデザインにも工夫を凝らした下駄は、観光客から地元の人にまで広く支持されている。
強く美しく、心踊らす 郡上おどり

人びとを惹きつける郡上の夏

奥美濃の山々に囲まれ、吉田川に沿って築かれた城下町の風情が残る、郡上八幡。7月中旬から9月、辺りがすっかり暗くなると、笛や太鼓の音とともに唄声が響き、今夜の踊りが始まります。会場いっぱいに大きな輪をつくり、地元の人も初めての人も一緒になって踊ります。

毎年8月13日から16日は一番の盛り上がりを見せる「徹夜おどり」。全国から熱気あふれるファンが集結し、明け方まで踊り続けます。この4日間は、各地へ旅立った郡上出身の人たちもいてもたってもいられず、家族を連れて踊りに帰って来るのだそうです。

会場に鳴り響くのは、下駄の音。

「初めて郡上おどりに行ったとき、すごく盛り上がっていて。会場の一体感を生み出しているのが、下駄の音だったんです」。

愛知県出身の諸橋さん。県立森林文化アカデミーで木工を学んでいたときに、郡上市出身の同級生に誘われて郡上おどりに訪れました。

賑やかな唄やお囃子に答えるように、カンッカンッと響く下駄の音。大勢の人が集う会場全体に、心地よく整ったリズムが刻まれます。

衰退した下駄づくりで、郡上おどりを盛り上げる

  • 写真提供 郡上八幡観光協会

「まちの人から、下駄が郡上で作られていないと聞きました。それは寂しいなと思って」。

以前は郡上で下駄が作られていましたが、靴の普及などで徐々に衰退。ただ1996年に東海北陸道・郡上八幡ICが開通して以来、遠方から郡上おどりに訪れる人数は年々増えていました。やって来た人は会場を盛り上げる下駄の音を聞くと欲しくなり、現地で買い求めるように。下駄の需要は高まっていました。

「迷いもありましたが、競合になるかもしれない老舗の靴屋さんに『一緒に郡上おどりを盛り上げる仲間だよ』と励まされて、ここで下駄づくりをすることに決めました」。

下駄を履きつぶすことは、郡上の自然を守ること

諸橋さんがこだわるのは、郡上で育った木を使うこと。郡上市は、面積の約90%が森林という自然豊かな地域ですが、適度な間伐がされず荒れていく森もあるのが事実です。

諸橋さんが作る下駄は1枚の分厚い板から1足を丸ごと削り出している「一体型」で、接着部分がひとつもありません。このほうが二枚の歯を接着して作る普通の下駄よりも丈夫になり、踊りに向いているのだそうです。また、木は郡上で安定的に手に入れることができ、かつ軽くて丈夫なヒノキを選んでいます。

「下駄は履くことでどんどん削れていく。“踊り好き”といわれる人は、1シーズンで3足履きつぶします。微力だけど、郡上の自然を守ることにつながるんです」。

100数種類からお気に入りの鼻緒を見つけて

諸橋さんのお店「郡上木履」は、郡上八幡のメインストリートから1本入ったところにあります。築100年の古民家を改修したお店に、色とりどりの鼻緒が並んでいます。鼻緒のデザインはなんと100種類以上。郡上本染や郡上発祥のシルクスクリーンプリントで作られたものから、「日本の手仕事を残したい」という諸橋さんの思いで有松絞りや伊勢木綿によるものなど、さまざまです。

気に入った鼻緒とサイズを選んだら、その場で自身に合った長さに調節してくれます。

「徹夜おどりの日は、深夜2時ぐらいにこのお店がお客さんでいっぱいになりますよ。下駄を持っていない人も、音を聞いてたら欲しくなっちゃうんです」。

400年続くのは、郡上の人びとの懐深さ

  • 写真提供 郡上八幡観光協会

郡上おどりの始まりは、身分制度が厳しかった江戸時代。お盆の4日間だけは、身分の隔てなく踊って融和を図ろうと始まり、その後さかんになっていったとされます。こうした背景があるから、地元の人は外から来る人を受け入れ、一緒に楽しむ文化が根付いたのかもしれません。

「これを400年以上も続けてきたこのまちがすごい、と心から思うんです」。

地元の子どもたちは、幼いころから家族に連れられ、踊り文化にふれあいます。成長して自分で浴衣を着つけ、会場へ駆け出すと、約束しなくても自然と友達が集まっている。そんな幼いころの楽しい思い出が、ふるさとの誇りとなり、次の世代へとつながれていきます。

昼は水のせせらぎに癒されてマイ下駄づくり

  • 写真提供 郡上八幡観光協会

郡上おどりをもっと楽しむなら、一足先に郡上に訪れて郡上木履でマイ下駄づくりを体験しましょう。諸橋さんご指導のもと、郡上産ヒノキを好きな形に削り出し、選び抜いたお気に入りの鼻緒も自分ですげれば、世界に一つのオリジナル下駄の完成です。早速踊りたくなったら、季節に限らず踊りの練習ができる郡上八幡博覧館へ。

郡上八幡は「水の都」と呼ばれ、メイン通り沿いにある「やなか水のこみち」はその風情をたっぷり味わえます。趣き深い古い町並みを歩くと、おしゃれなカフェなどモダンなお店もたくさん。マイ下駄を作りがてら、ゆっくりと散策するのがおすすめです。

「『この下駄を買ったから郡上おどり行こう』。そんな気持ちになる下駄を作っていきたいです」。

待ちわびる開幕。響く下駄の音が、胸の高鳴りを募らせます。

旅のメモ

全国から30万人以上が集う「郡上おどり」

郡上おどりは、7月中旬~9月上旬までの間、30数夜に渡って行われます。

今年の夏はオリジナルのマイ下駄でぜひご参加ください!

全国から30万人以上が集う「郡上おどり」