広葉樹が茂る飛騨 宝の森でものづくり

森林が豊富で、古くから建築材や生活用品を木で作ってきた日本。均一でまっすぐな「針葉樹」は建築や家具に加工しやすく、積極的に植林が行われてきました。
一方で、曲がっていたり細い枝が多い「広葉樹」はあまり使われなくなります。秋には色鮮やかな紅葉となって私たちを楽しませてくれる広葉樹の森。これを活用しようと飛騨市で立ち上がったのが、浅岡秀亮さんが所属する「飛騨の森でクマは踊る」、通称「ヒダクマ」です。

<この記事は、(株)岐阜新聞社と岐阜県観光連盟との共同企画で制作しました。>

訪ねた人:浅岡秀亮さん
飛騨市出身。民間企業で木工や家具デザインを経験した後、飛騨市と民間企業が共同で設立した「飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)」に所属。「木のイノベーター」としてプロダクト開発や設計、制作、施工まで幅広く手がける。
広葉樹が茂る飛騨 宝の森でものづくり

飛騨の木の「新しい可能性」を発見

  • photo:Gottingham

一つひとつ異なる、木の色合いや木目。自然の力で曲がった形。木に囲まれた空間は、木が森で過ごしていたときの温もりが伝わるのか、不思議な安心感に包まれます。森林が豊富な日本の伝統的な家屋や家具の多くは木が使われてきましたが、組み合わせやデザインによって、驚くほどモダンでおしゃれな雰囲気を与えることができるのも、木の大きな魅力です。

そんな木の“新しい可能性”を見いだしている「ヒダクマ」。2015年、飛騨市と民間企業でつくられた第三セクターです。

地元の自然を生かす“木のイノベーター”

このなんとも不思議な名前の会社で「木のイノベーター」として活躍するのが、飛騨市に生まれ育った浅岡さん。幼いころから身近にあった木のデザインなどを学び、家具メーカーなどで働いた後、故郷に戻ってその経験を生かしています。

「飛騨のきれいな空気や水を支える飛騨の山には、ひとつとして同じものがない広葉樹の木がたくさん生えています。それらはどれもユニークで、美しさがある。最新技術の活用や各地のプロたちと協力して、飛騨の匠たちもやらなかったような、見たことのない新しいものづくりを、ヒダクマで実現しています」。

飛騨市の豊富な広葉樹を生かしたい

岐阜県の最北部に位置する飛騨市。面積の約9割が豊かな森林に囲まれています。さらに広葉樹が7割という、全国でも非常に珍しい場所。ミズナラやブナ、イタヤカエデやホオノキ。秋にはこれらが美しく紅葉します。「飛騨の匠」と称えられたように、古くからこの地で高度な技術が育まれ、現在に至るまで木工産業が盛んです。

「しかし高度経済成長期に木の需要が急増し、均質で低コストの輸入材が使われるようになりました。山に生える木は高地と低地で硬さなどの材質が変わるし、雪の重さとかで曲がっているものも多い。均質なものを大量に生産するという視点だと、飛騨の木は使いづらいものだったのです」。

伝統×最新テクノロジーで唯一無二のものづくり

豊富な種類の広葉樹が生える飛騨の森。しかしその特性ゆえに、木の細さや曲がり具合、材質はバラバラ。建築や家具には使えず、細かいチップや薪などにしかならないとされていました。

「ヒダクマではむしろその特性を生かして、新たな価値を生み出しています。飛騨の匠たちが駆使した『組木(くみき)』という伝統技術や、ARなどの最新技術をフル活用。他業種のプロフェッショナルたちと協力して、デザインにもこだわった家具や空間設計など幅広い事業をお手伝いしています」。

飛騨の職人が持つ豊富な木の知識や高度な木工技術と、3Dスキャニング、AR(拡張現実)などのテクノロジーを組み合わせることで、これまでありえなかった形が生まれます。“厄介”とされてきた広葉樹特有の曲がりが、自然が生みだす唯一無二の芸術として生まれ変わります。

飛騨の恵みを誰もが体験できる拠点「FabCafe Hida」

ヒダクマの拠点であり、誰でもその取り組みをのぞけるのが、飛騨古川のメイン通りに建つ「FabCafe Hida」。飛騨の森で採れる香木「クロモジ」を使ったコーヒーやミルクティー、飛騨で乳業を営む「牧成舎」の濃厚な牛乳を使った「ひだカヌレ」など、ここにしかない飛騨の味が楽しめる、古民家カフェです。

ポイントはレーザーカッターやUVプリンター、3Dプリンターなどが用意されているところ。これらを使って、ここへ来た人たち自身が飛騨の森の新たな価値を生み出す主役になれます。飛騨の広葉樹を使った箸作りの体験などもでき、誰もが自由に「ものづくり」を楽しめます。

多くの人びとと、飛騨の森の魅力を発掘

FabCafe Hidaは、宿泊施設という側面も。裏手には本格的な工房が併設されており、建築やデザインを学ぶ学生、専門家たちが国内外から研修に訪れます。

また定期的に開催するのが、普段あまり見かけないような広葉樹の板材や丸太を誰でも1グラム1円で買うことのできる「蔵出し広葉樹」。木ごとの特徴や使い方などを聞くこともできます。

ほかにも森林をテーマにしたワークショップや学びのツアーを定期的に開催。広くさまざまな人を巻き込んで、まだまだ隠れた森の魅力を発掘しています。

薬草に伝統…魅力あふれる飛騨古川

白壁土蔵と瀬戸川の風景で有名な飛騨古川。飛騨の自然で広葉樹と同じくらい特徴的なのが、薬草の宝庫であることです。「ひだ森のめぐみ」は風味や効能の異なるさまざまな種類の薬草茶を販売。スタッフにそれぞれの効能を教えてもらいながら試飲したり、自分でブレンドする体験もできます。薬草を使った料理を楽しめるお店も点在しています。

また「飛騨の匠文化館」では、ヒダクマも用いる「組木」の技術を体感できます。

自然の恵みを、人の営みに活用していく飛騨市。木と共に歩んだ、いにしえの匠たちの探究心と知恵は今も地元の人びとに受け継がれ、さらに輝く未来へと、新しい一歩を踏み出しています。

旅のメモ

「飛騨の匠文化館」で匠の技を体感

継ぎ手や木組みの見本展示やパズルのように千鳥格子を組む体験コーナーなどもあります。

飛騨で育った木材で釘を1本も使わず建てられた匠文化館の建物自体も見どころのひとつです。

「飛騨の匠文化館」で匠の技を体感